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名古屋高等裁判所 昭和54年(う)233号 判決

被告人 Y](昭○・○・○生)

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

差戻前第一審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人D名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原判決の量刑が罰金刑を選択処断しなかつた点で重過ぎて不当である、というのである。

所論は量刑不当の主張であるが、所論に対する判断に先だち、職権をもつて原判決の法令の適用の当否を検討すると、原判決は、その罪となるべき事実として、被告人が一八歳未満の児童である原判示A子に対し、B(原判示第一)、C(同第二)を売春の相手方として紹介し、同女をして右両名を相手にそれぞれ売淫させ、もつて売春の周旋をするとともに児童に淫行をさせたという事実を認定したうえ、右事実中、児童に淫行させた点は児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項、罰金等臨時措置法二条、四条に、売春の周旋をした点は売春防止法六条一項にそれぞれ該当するが、右各児童福祉法違反と売春防止法違反とは観念的競合の関係にあるので、刑法五四条一項前段、一〇条を適用し、いずれも児童福祉法違反の罪の刑で処断するとし、続いて右各罪につき、所定刑中懲役刑を選択し、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条を適用して併合罪加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一〇月(但し二年間執行猶予)に処したことが原判文上明らかである。

しかしながら、児童福祉法三四条一項六号違反の罪は、淫行の回数が多数である場合においても、個々の淫行毎に成立するものではなく、その淫行全部を包括的に観察して一罪を構成するものと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和二九年九月二九日判決・高裁刑集七巻九号一四五〇頁、同裁判所昭和三一年二月二二日判決・高裁刑集九巻一号一〇三頁等参照)。そして、本件の児童福祉法違反と各売春防止法違反とは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当し、結局以上を一罪として処断すべきこととなるから、原判示第一及び第二の罪を併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤つており、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。原判決はこの点で破棄を免れない。

そこで、論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条に則り、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書にしたがい、当審において更に判決する。

原判決の認定した原判示第一及び第二の事実に法令を適用すると、被告人の本件所為中、児童に淫行させた点は包括して児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項、罰金等臨時措置法四条に、売春の周旋をした点は各売春防止法六条一項、罰金等臨時措置法二条に各該当するところ、右児童福祉法違反と各売春防止法違反とは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するから、刑法五四条一項前段、一〇条により結局以上を一罪としても最も重い児童福祉法違反の罪の刑(ただし、罰金の多額については売春防止法違反罪の刑のそれによるべきものと解する。)で処断することとする。そこで犯情について考察すると、被告人が原判示A子の依頼によるとはいえ、前記二名の男性を同女に紹介して売淫するに至らしめもつて児童の福祉を阻害する行為に及んだ点において、単に成人の婦女に対し売春の周旋をした事案とは犯情においても異なり、被告人の刑責は軽視し難いけれども、被告人は実兄の経営する飛脚急便業の手伝をしている者であつて、もとより暴力団関係者などではなく、その前科も昭和三九年三月二四日、四日市簡易裁判所で業務上過失傷害・道路交通法違反の罪で罰金刑に処せられた以外には見当たらず、被告人と前記A子とは特に親密な関係にあつたものではなく、本件犯行によつて被告人になんら経済的利得がないことなど諸般の事情を考慮し、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金五〇、〇〇〇円に処し、被告人において右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なお、差戻前第一審における訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりその全部を被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 服部正明 土川孝二)

〔参考〕 原審判決(津家 昭五四(少イ)一号 昭五四・六・二一判決))

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